このブログ記事を読むことで、理学・作業療法士を目指す学生の皆さんは、在宅支援に欠かせない「家屋調査」と「退院前訪問指導」の基本的な流れやポイントをわかりやすく理解できます。
実習や将来の仕事で役立つ具体的な視点を身につけ、患者さんの安全で快適な生活を支える準備ができます。専門用語を使わずシンプルに解説しているので、初めて学ぶ方も安心して読めます。

理学療法士16年 訪問リハビリ11年 宅地建物取引士
回復期病院で家屋調査や福祉住環境についての講師を多数開催
当ブログの管理者で、PTの家屋調査ブログで日本一を目指して執筆中
なぜ家屋調査・退院前訪問指導が重要なのか

病院でリハビリをがんばって元気になった患者さんでも、家に帰ったとたんに転んでしまった…そんな話を聞いたことはありませんか?
そこで大切になるのが「家屋調査」や「退院前訪問指導」です。これは、患者さんが安心して自宅に帰れるように、実際の生活の場を見て、必要なサポートを考えるというものです。
- 家の中にある小さな段差が転倒の原因になる
- お風呂やトイレの動きが意外と難しい
- 家族のサポートのしかたに工夫が必要
リハビリのゴールは「家で安心して生活できること」。
そのためには、退院前のひと手間がとても大切なのです。
これから紹介する内容を通して、実際の現場でどんなことを大切にすればいいのか、一緒に学んでいきましょう。
家屋調査・退院前訪問指導の目的とは

病院でリハビリをがんばっていた患者さんも、いざ自宅に帰るとなると、思わぬところでつまずいたり、転びやすくなったりすることがあります。そんな「生活の中の危険」を見つけて、安全な暮らしにつなげるのが、家屋調査や退院前訪問指導の目的です。
家屋調査でわかること
- 自宅での生活に必要な動作を確認できる
- 必要な改修や福祉用具の提案ができる
- 家族や介護サービスと協力して支えること
病院ではうまくできていた動きも、家では難しくなることがあります。だからこそ、実際の生活の場で確認することがとても大切なのです。
誰がいつ実施するのか(多職種連携の重要性)

家屋調査や退院前訪問指導は、退院の少し前のタイミングで行われることが多く、患者さんが自宅で安心して暮らすための大切な準備のひとつです。この場には、さまざまな専門職が関わります。
参加する主なメンバー
- 理学療法士・作業療法士(動きや生活のしやすさをチェック)
- 看護師(医療的なケアや体調の確認)
- ケアマネジャー(介護サービスや支援の計画)
- 福祉用具専門相談員(手すりやベッドなどの提案)
- 患者さん本人とその家族(生活の希望や困りごとを共有)
これらの人たちが同じ現場に集まり、それぞれの視点で「何が必要か」を考えることが大切です。
理学療法士・作業療法士は、その中でも「動作」と「環境」をつなぐ役割を担います。
次の見出しでは、こうした多職種連携がなぜ重要なのか、より詳しく紹介していきます。
家屋調査の基本的な流れ

家屋調査は、患者さんが退院後に安全で安心して生活できるように、実際の住まいを確認し、必要なサポートを考える大切な機会です。ここでは、家屋調査がどのような流れで行われるのかを、わかりやすく紹介します。
1.訪問日を決める
まずは患者さんや家族、ケアマネジャーと相談して、家屋調査を行う日程を調整します。退院の2~4週間前に行うことが多いです。
2.患者さんと一緒に自宅を訪問する
調査当日は、理学療法士や作業療法士、看護師、ケアマネジャーなどが参加し、患者さん本人と一緒に自宅を見に行きます。
3.家の中を一通り見て回る
玄関、廊下、トイレ、浴室、寝室などを確認し、段差や手すりの有無、動線(歩くルート)などをチェックします。この時に大切なのは、患者さんの能力で、安全に生活できるか想像しながら住宅を観察します。
患者さんが病気やケガが重症の場合、これまでの生活と全く異なる生活を、提案しなければならないことがあります。(寝室を2階から1階に変更する提案、玄関からではなく勝手口から外出する等)
4.実際に動作を行ってもらう
ベッドからの起き上がりや、トイレの移動など、実際の生活動作を行ってもらい、どこに困難や危険があるかを観察します。ここでは、転倒しないように必要に応じて介助をします。介助量を見て、退院後自立した動作が可能かどうか判断します。
5.必要な支援を検討する
福祉用具や住宅改修の必要性を話し合い、どんな支援があれば安全に生活できるかを考えます。
療法士として、自主練習や運動の必要性をするだけでなく、入院中の生活から見ておかなければなりません。相性を考えて、通所サービスと訪問サービス等の提案を行います。
6.その場で助言・説明を行う
調査中に見つかった危険な場所や注意点について、その場で家族に説明し、対策を伝えます。

玄関を上るときは、手すりを持っていただく必要があります。
患者さんは、せっかちなので、家族さんから声掛けをお願いします。
7.記録・報告を行う
調査後は、気づいた点や提案内容を記録し、チームで共有します。これが退院後の支援の土台になります。報告書は、上司や先輩のチェックを受け、提出するほうが望ましいと考えます。
このような流れで行われる家屋調査は、患者さんの「これからの暮らし」に直結する、とても実践的な支援です。現場では、観察力とコミュニケーションがとても大切になります。
家屋調査で確認すべき主なチェックポイント

自宅での生活は、病院とはまったく違います。普段の生活では気にならない段差や家具の位置が、退院後の患者さんにとっては転倒やケガの原因になることもあります。だからこそ、家屋調査では「どこに危険があるのか」「どんな工夫が必要なのか」をしっかり見ていくことが大切です。
では、実際にチェックするポイントを場所ごとにわかりやすく紹介していきます。
段差・床材・手すりの有無

“家の中には、ちょっとした段差が意外とたくさんあります。たとえば、玄関の上がり框(かまち)、トイレの出入り口、部屋と廊下の境目などです。数センチの段差でも、高齢者や体の動きが不安定な人にとっては転倒のリスクになります。
チェックポイント
- 段差の高さや場所はどこか?
- 滑りやすい床材(フローリングやタイルなど)はないか?
- 手すりが必要な場所に設置されているか?
また、フローリングの滑りやすさや、カーペットの段差のつまずきにも注意が必要です。
必要に応じて、手すりの設置や段差解消(スロープなど)を提案することで、安心して生活できる環境につながります。
見た目だけでなく、「実際に患者さんが歩いたときにどう感じるか」にも注目しましょう。
玄関
- 段差の昇り降りは安全か?
- 靴の脱ぎ履きに苦労していないか?
- 玄関マットや床が滑りやすくないか?
トイレ・浴室・玄関・階段などの環境評価

トイレ・浴室・玄関・階段は、使い方や動作に注意が必要なため、家屋調査ではしっかりと確認するポイントです。
<危険or危険はない>のチェックではなく、どのように危険なのかや、動作を変更すれば安全に活動できるなど、様々な視点で環境評価をしなければなりません。
トイレ
- 出入り口に段差があるか?
- ドアの開閉は安全にできるか?
- 便座に座るまでの動作で転倒の危険がないか?
- 便座への立ち座りが安全にできるか?
- ズボンや下着の上げ下げが上手くできるか?
- トイレ動作に使う手すりは設置されているか?
- 便座の高さはちょうどいいか?
- 清拭(おしりをキレイに拭けるか?)ができるか?
- 紙やレバーに手が届くか?
浴室
- 浴室の出入り口の段差があるか?
- 床が滑りやすくないか?
- 洗い場の椅子の高さは適切か?
- 浴槽内でしゃがみ動作ができるかどうか?
- またぎ動作に危険はないか?
- 浴室内に手すりがあるか?
階段(屋内・屋外ともに)
- 段差の昇り降りは安全か?
- 手すりがついているか?
- 滑りやすくないか?
- 不要なものは置いていないか?
移動動線と家具配置

患者さんが家の中でどこからどこへ、どのように動くかという「移動動線」と、家具の置き方は、生活のしやすさや安全に大きく関わります。
たとえば、「ベッドからトイレに行くまでの間に、家具がせまい通路をふさいでいる」や、「夜間トイレに行くために階段を使用するなどがある」と、それだけで転倒のリスクが高くなります。
また、歩行器や杖を使う人にとっては、ほんの少しのスペースの差が「通れるかどうか」に直結します。
家屋調査で見るポイント
- 通路がせまくなっていないか?
- 動線上に障害物や不要な家具がないか?
- 移動がスムーズにできる配置になっているか?
家具の位置を少し変えるだけでも、安全性や使いやすさがぐんと良くなることがあります。
学生のうちは見落としがちですが、「どこをどう通って生活しているか」を見ることが、支援の第一歩になります。”
退院後の生活を見据えた動作確認

理学療法士や作業療法士が家屋調査で特に大切にしているのが、「退院後の生活を実際にイメージして動作を確認すること」です。
病院の中では、手すりもあり、環境も整っています。でも、自宅では環境も動き方も人それぞれ違います。だからこそ、実際の家の中で、「普段どんな動きをするのか」「その動きに危険がないか」を確認することがとても重要です。

退院後の患者さんの生活を想像する必要があります。
このために、患者さんのリハビリ以外の生活を確認しておく必要があります。
(ベッド周りに物が多い、よく片づけをしている、よく寝ているなど)
- トイレや浴室までの移動
- 服の着替えや靴の脱ぎ履き
- 台所での作業や洗濯などの日常動作
これらの動作を、実際にその場でやってもらうことで、困っていること・不安に思っていることが見えてきます。
ただ「できるかどうか」を見るのではなく、「安全に、安心してできるか」を見るのがポイントです。
退院後の生活を支えるために、動作の確認は欠かせない視点です。机上の知識だけでなく、現場での観察力や想像力が求められる大切な仕事です。
家屋改修や福祉用具の提案方法

家屋調査のタイミングで行う福祉用具の提案や選定は、理学療法士や作業療法士にとって、とても大切な役割のひとつです。
高齢者が退院後も安心して暮らせるようにするためには、本人の身体機能に合った福祉用具を選ぶだけでなく、実際の住まいの広さや通路の幅、家具の配置に合ったものを提案する力も求められます。
提案時に大切なポイント
- 手すりやがその家の環境に無理なく設置できるか?
- 福祉用具を使っても生活動作がスムーズに行えるか?
- 本人や家族が扱いやすいか?(操作方法や設置位置など)
- 一緒に生活する家族の負担にならないか?
また、家屋調査では福祉用具専門相談員(業者)と直接話せる貴重な場でもあります。
「ここにこの用具を置きたいけどスペース的にどうか?」など、専門的な相談をしながら、患者さんにとって最適な選び方ができるのも、このタイミングならではです。

福祉用具に関しては、福祉用具専門員に相談して進める。
ケアプラン全般はケアマネジャーに相談する。
家族の提案や意見は、尊重し反映することが大切です。
つまり、福祉用具の提案は単なるモノ選びではなく、「人」と「環境」をつなぐ大切な提案活動なのです。療法士の観察力・判断力・コミュニケーション力が生きる場面でもあります。”
患者本人・家族への説明と合意形成のコツ

家屋調査をもとに、「ここに手すりをつけましょう」「この道具を使いましょう」と環境を整えることはとても大切ですが、療法士だけの判断で勝手に決めることはできません。
環境の変化は、患者さんやご家族にとって生活の仕方が変わる大きなことです。そのため、調査でわかったことや必要な支援内容を、本人や家族にわかりやすく説明し、納得してもらうことがとても重要になります。
また、実際にサービスとして環境を整えるには、ケアマネジャー、福祉用具の業者さん、介護職のスタッフ、など、多くの関係者との連携・合意が必要です。
- ご家族にも環境変更の理由や使い方を説明する
- 他の専門職と相談し、みんなが納得できる方法を考える
療法士は、つなぐ役割を持っています。
本人・家族・関係者が同じ方向を向いて安心して生活できるよう、説明と合意のプロセスも、支援の大切な一部なのです。
記録のポイントと報告書の書き方

家屋調査が終わったら、その内容を正確に、わかりやすく記録・報告することがとても大切です。記録や報告書は、本人や家族の希望をチーム全体に伝えるための大事なツールであり、次の支援につなげるための“橋渡し役”になります。
記録で意識すべきポイント
- 見たこと・聞いたことを具体的に書く(事実ベース)
- 誰が読んでも伝わるように、簡潔でわかりやすく
- 環境調整や福祉用具に関する提案を明記する
- 住宅改修が必要な場合は、写真や図、寸法など数値も必ず記載する
とくに住宅改修や福祉用具の設置については、「どこに何を」「どのくらいの高さ・長さで」設置するのかを、数値で記録することがとても重要です。また、写真を添えることで、現場の状況がより伝わりやすくなります。
また、報告書は調査後できるだけ早くケアマネジャーに提出することが大切です。提出が遅れると、住宅改修や福祉用具の手配が間に合わず、退院後の生活に支障が出ることもあります。スムーズな退院支援のために、正確かつ迅速な報告が求められます。
学生のうちから、「誰に」「何を」「どのように伝えるか」を意識した記録づくりを心がけていきましょう。
学生のうちに身につけたい視点と考え方

理学療法士や作業療法士を目指す上で、専門的な知識や経験はもちろん大切です。しかし、学生のうちはまだ知識や経験に限りがあるのが当たり前です。だからこそ今は、「どんなことにも興味を持ち、自分なりに観察し、考える力」を育てることがとても大切です。
こんな所に学びがあります
- 実習先で見かける福祉用具の種類や使い方に注目してみる
- スーパーや駅、公共施設でのバリアフリー設備(スロープ・手すり・トイレ)を観察してみる
- 家の中や祖父母の生活を見て、「ここに手すりがあれば安全かも」と考えてみる
こうした日常の中で「気づく力」や「想像する力」を養っていくことが、将来の大きな武器になります。
知識はこれからでもいくらでも身につけられます。
でも、利用者の立場で考える視点や、「なぜこうなっているのか?」と考える習慣は、今からでも意識すれば大きく伸ばせます。
「なんとなく見る」のではなく、「意味を考えながら見る」習慣を、ぜひ学生のうちから大切にしてください。
よくある質問 Q&A

Q1:家屋調査って、まだ学生のうちから意識する必要があるんですか?
A1:はい、あります。
実際に担当するのは就職後かもしれませんが、今のうちから「家のどこが危険になりうるか」「どうすれば安全に動けるか」といった視点を持って生活を見ることは、実習や将来の仕事にとても役立ちます。
身近な場所や公共施設のバリアフリーにも注目してみましょう。
Q2:家の中を見て、何が危険か判断できるか自信がありません。どうすれば良いですか?
A2:最初から完璧にできる人はいません。
まずは基本的なチェックポイントを覚えておき、「この人がこの動作をする時、ここで困りそう」と想像することから始めましょう。
例えば、段差が高い・手すりがない・通路が狭いなど、“本人の動き”と“環境の特徴”をセットで見ることがコツです。
Q3:福祉用具のことをまだあまり知らないのですが、何から勉強すればいいですか?
A3:まずは実際の福祉用具を“見て・触れて・使ってみる”ことが一番です。
実習先で使われている福祉用具を観察したり、福祉用具の展示会やカタログをチェックしてみましょう。
さらに、「どんな身体状態の人に、どんな道具が合うか」だけでなく、「家の広さや構造に合うか」も考えることが大切です。
これらの視点を学生の内から養っておくことで、臨床の療法士としての大きな強みになります。
まとめ:在宅支援の出発点としての家屋調査の意義

家屋調査は、単なる「家のチェック」ではありません。退院後、その人が安全に、安心して自宅で生活できるかどうかを考える出発点です。
家の中の段差や手すりの有無、トイレや浴室の使いやすさ、動線や家具の配置など、生活すべての基盤となる環境を把握し、支援の方向性を考えるのが家屋調査の役割です。
また、福祉用具の提案や住宅改修の内容は、本人の身体状態だけでなく、住宅の広さや構造、家族の協力体制などを総合的に考える力が必要です。そして、それを関係者全員と共有し、協力しながら進めていくことも療法士の大事な役割です。
学生のうちは、すべてを完璧にできる必要はありません。大切なのは、「その人らしい暮らし」を支えるために、どんな視点が必要かを知り、考える姿勢を持つことです。
家屋調査は、在宅支援の最初の一歩であり、療法士としての視点を大きく広げるチャンスでもあります。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。この記事が皆さんの学びや実習に役立てば嬉しいです。ご質問やご意見がありましたら、ぜひコメント欄からお気軽にお寄せください。
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