理学療法士、作業療法士、言語聴覚士にとって、患者さんの自宅退院はうれしいことです。
これからも事故なく安全に過ごしてほしいと思っていることでしょう。
しかし、自宅退院はうれしい反面、退院後の生活が心配になる人も多いでしょう。
退院前訪問指導で高齢者の住宅を訪問し、住宅改修の提案できていますか?
今回は、回復期病院の療法士が、退院前訪問指導で【家屋調査】を行い、高齢者の住環境整備の提案をするとき、とても役立つ情報をご紹介します。
この情報は、私が回復期病院で研修会を開催した時の資料も掲載します。
住環境の調整は、『高齢者が生活しやすくなる」や、『転倒予防につながる」など大きな役割があります。
では、どのように住宅改修を提案すればよいのでしょうか。
全ての段差に手すりを設置する必要はありません。
必要な場所に設置できるように、ポイントを絞って解説します。
このブログを書いた人
理学療法士15年目
不動産営業マンを10年やって理学療法士に転職。宅建の知識を活かして住宅改修の研修講師や、訪問リハビリを通して高齢者の在宅生活について発信しています。
高齢者の事故情報から、住宅の基本的な勉強、さらに事例を通して住環境整備の学習をしていきたいと思います。
住環境整備の前に知っておきたい高齢者の生活の現状
高齢者の自宅で起こる事故死
1年間で65歳以上の高齢者が、家庭内で事故死した人数は年間11,966人です。
ちなみに日本人の1年間の交通事故死亡者数は3,154人で約3.8倍です。
溺死と転倒・転落は、住環境の整備に大きくかかわってくるする数字です。
溺死は浴室で起こる事故だと想像できますが、転倒・転落はどこで起こっているのでしょうか?
高齢者がよく転倒する場所と転倒する原因
高齢者が最も多く転倒場所は『庭』
凸凹がある場所、物が置いてある場所、狭い場所など足元に危険が潜んでいる場所があります。
庭を整備・整地するのは、重労働になります。また郊外の住宅では、整備できない庭があり危険が回避できない場合があります。
自宅内で最も転倒する場所はリビング
高齢者が自宅内で転倒する場所が、リビングだったことに驚かれた方もいるでしょう。
玄関や階段の段差が、転倒の原因になることもありますが、くつろぎの場所のリビングに危険が潜んでいることになります。
リビングで転倒する原因は、床にラグやカーペットは敷いてあり、これが小さな段差となって転倒することが考えられます。また、家電のコード類が引っ掛かりの原因になる場合もあります。さらに、床に物を置いている住宅もあります。片付けや整理整頓ができていない住宅では、さらに転倒のリスクが増加します。
扇風機や充電器のコードが、歩く場所に伸びています。
引っ掛かって、転倒すると思います。
- カーペットやラグの段差
- 家電のコード類
- 床に置いている物につまずく
- キャスター付きの椅子
整理整頓や掃除は、大切です。
家庭内事故死に至らない転倒・転落のケース
高齢者を対象に行ったアンケート結果
3人に1人が1年間に1回以上転倒・転落したことがあると回答
自宅内で転倒する高齢者は、年間1,213万人になります。
すべての人が骨折に至るわけではありません。
転倒・転落した人の内、約5%(61万人)が骨折をしています。
非骨折者95%であっても、打撲により、疼痛が出現し活動量の低下になり、食事量の減少を招き機能低下に陥ってしまうことがあります。
このような非骨折者では、体力の低下、意欲の減少など負のループに陥る可能性があります。
転倒・転落を予防するために、高齢者が安全に生活する目的で、国は介護保険制度をの中で住宅改修の費用を認めています。
次は住宅改修に利用できる介護保険制度を見ていきましょう。
退院直後の転倒を防止するためのチェックポイントをまとめました。
退院後すぐに転倒するケースは少なくありません。
療法士として、知っておきたい転倒リスクの高い場所を解説しています。
介護保険制度で利用できる住宅改修の制度
在宅介護を重視し、高齢者の自立を支援する観点から、福祉用具導入の際必要となる段差の解消や手すりの設置などの住宅改修を、保険給付の対象としている。
介護保険制度による住宅改修は6種類
- 手すりの取付け
- 段差の解消
- 滑りの防止と及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更
- 引き戸等への扉の取替え
- 洋式便器等への便器の取替え
- その他、前各号の住宅改修に付帯して必要となる住宅改修
住宅改修の支給限度額
生涯20万円(要支援、要介護区分にかかわらず定額)
・ 保険給付は原則9割(上限18万円)所得に応じて8割(上限16万円)・7割(上限14万円)
・ 限度額の範囲内であれば、複数回の申請も可能
・ 要介護状態区分が三段階上昇時、転居した場合は再度20万円までの支給限度基準額が設定される
20万円を使い住宅改修すると、手すりの設置ができます。
しかし、トイレや浴室の全面改修などは予算オーバーになります。
セラピストも知っておきたい住宅用語
住宅用語を簡単に解説します。
住宅用語を知っていれば、ご自身が家を買うとき、建てる時、借りる時にも役立ちます。
面積を表す単位は「ツボ」と「ジョウ」
面積を表す単位は、学校の算数で「㎡:平方メートル」と習いましたが、住宅業界では「坪(つぼ)」と表示されます。
1坪=3.30578㎡
部屋の大きさを表すときには、畳・帖(じょう)を使います。
主人の寝室は8畳です
退院前訪問指導で患者さんの自宅に行ったときは、部屋の大きさがわかるほうが良いです。
寝室の変更や、自宅の使い方の話し合いができるようになります。
ここでは、6畳と8畳の部屋の大きさの測り方を紹介します。
両手を広げて長さを測ります。
おおよそ、両手を広げた幅が180cmくらいだと考えてください。
- 6畳=両手2人×1.5人
- 8畳=両手2人×2人
さらに、詳しく知りたい方はコチラ
20年以上前に建築された住宅を知る
高齢者の自宅は、築年数が20年以上経過した住宅が多いのではないでしょうか。
このような住宅の特徴やイメージを持っておくと住宅改修を考えるヒントになります。
築年数が古い家の特徴を紹介します。
- トイレが廊下より一段低い
- 洗面所が廊下より一段高い
- 浴室の出入り口に大きな段差
- 玄関框(かまち)が高い
トイレが廊下より一段低い
住宅の排水の性能が原因です。
現在に比べ、排水性能が悪かった家では、配管の“つまり”が問題になります。
トイレの汚水がつまり逆流してきたときに家全体に広がることを防止するために、トイレを低く作ったといわれています。
和式トイレは、住宅改修の提案をします。
洗面所が廊下よりも一段高い
洗面所は、洗面台の下に配管を通すため廊下より一段高くなります。
排水が詰まることもありますが、トイレに比べ詰まりにくいこと、水があふれることがあっても水であるため、汚水に比べ被害は小さいため高く作られていました。
浴室の出入り口に大きな段差
浴室の洗い場のドアの気密性が低く、水がかかると浴室の外に出てしまう恐れがある。
ドアが木枠のため、湿気に弱く水にぬれっぱなしの状態を防ぐ役目があります。
玄関の上がり框(あがりかまち)が高い
玄関の上がり框の高さに建築基準法の規定はありませんが、住宅の床の高さには規定があります。
住宅の床は、建築の地盤面から45cm以上高くする規定があります。
現在の住宅は、玄関前に階段を作ることで、玄関の上がり框を低くしています。
例:玄関の外に15cmの階段を2段、玄関の上がり框を15cmにする。
15cm×2段=30cm 30cm+15cm=45cmとなっています。
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退院支援サポートサービスは、①早期家屋調査、②福祉用具の相談、③オンライン訪問、④退院後の情報提供、⑤多職種連携のガイドラインの情報満載!
訪問リハビリ歴10年のPTの住環境整備の進め方
<福祉住環境コーディネーター2級のテキストの住環境整備の進め方>
- 本人が生活している場所の状況を確認
- できるかぎり本人立会いのもとで相談
- 身体状況の変化への対応を考慮
- 相談者側のキーパーソンを確認
- 本人と家族の意向を把握
- 費用対効果を検討
優先順位をつけて住環境を確認する
優先順位1位
・寝室・トイレ・玄関(外出方法)・食事する場所
優先順位2位
・リビング・浴室・キッチン・階段
優先順位3位
・庭・自宅周辺・2階・ベランダ
優先順位4位
・家の周辺の道路状況・よく行く買い物施設
退院前訪問指導【家屋調査】は、限られた時間で、必要な提案が求められます。
重要な項目からチェックして、しっかりと提案ができるようにしましょう。
優先順位1位【寝室】2位【トイレ】
寝室やトイレなど在宅生活で絶対に使用する場所を確認します。
要介護度が高い人や、介護負担が大きい人ほど重点的に確認します。
要介護認定が高い人 寝室環境の調整
要介護認定が高い人ほど、寝室を利用する時間が長くなります。
長時間利用する場所は、『転倒・転落防止』『介護負担軽減』どちらも必須です。
寝室は、住宅の「どの部屋にする」から考えなければいけません。
※家族さんは、習慣で「ここが寝室」と思い込んでいるケースがあります。
さらにベッド(特殊寝台)は、利用するべきか?どこに配置するべきか?など検討してください。
寝室の環境調整に記事はコチラ
日中・夜間に何度も利用する場所【トイレ】
トイレでチェックするポイントは複数あります。
トイレの手すり設置場所は要注意です。
手すり設置テキストやマニュアルの通りに取り付けると使いにくい場合があります。
宅建士PTがマニュアルを変更しているポイント
- 手すりは座位・立位で使いやすい
- 手すりは垂直より斜め(95度~110度)も検討
- トイレットペーパーの使いやすさも確認
トイレの環境調整に関する記事はコチラ
自立している患者さんは、優先順位3位の「自宅周辺」から確認することがあります。
ここで大切なことは、「本人の意思」「家族の思い」を尊重することです。
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家屋調査で福祉用具さんと意見交換をする方法
チーム医療の一員として、ほかのサービス関係者の意見を聞くことが大切です。
福祉用具業者さんに相談する一例を紹介します。
玄関には、このあたりに手すりが必要と考えています。
形状や位置について、ご提案おねがいします。
この壁にL型の手すりを設置するのはどうでしょう
玄関の段差は、どのような方法で解消すればよいですか?
手すりだけでなく、段差解消も必要であれば、手すりと台の一体型の福祉用具はいかがでしょう。
レンタルなので、不要になれば返却してください。
療法士側だけで決定してしまった場合、福祉用具さんの情報を引き出すことができません。
チーム医療を意識的に活用しましょう。
Q&A
Q:なぜ、福祉用具さんと意見交換したほうがよいのですか?
A:福祉用具さんは、福祉用具の情報があります。療法士の予後予測の能力と共有することで、現在を住みやすく、将来の変化に対応することができます。
Q:PT・OTが住宅改修を提案する理由は?
A:動作から生活を評価する能力があるから。疾患は同じでも、それぞれ動作が異なります。療法士が評価をして、より良い提案をしましょう。
まとめ
回復期病棟で活躍する療法士向けに、退院前訪問指導「家屋調査」の進め方を解説しました。
- 高齢者生活と、転倒やケガの原因を知る
- 介護保険制度について理解を深める
- 住宅の知識と、改修のポイント
- 住宅改修の優先順位とチーム医療
について、解説しました。
最後まで、読んでいただきありがとうございました。
セラピストホームズでは、高齢者の住環境を改善する情報を提供しています。
住宅の部屋別の住宅改修、疾患別の住宅改修などの記事を用意しています。
さらに、療法士として成長を目指す方はオンラインセミナー【リハノメ】をおすすめします。
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